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ある少年の夢と父の思い出 [一期一会]

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ある一人の少年がいた。彼には兄と姉がいたが、少し歳が離れていたこともあり、一人で遊ぶことが多かった。近所に同じ学年の友達がいなかったせいでもある。両親は共働きで、学校から帰るといつも話し相手はおばあちゃんと猫一匹。そんな彼が一番大事にしていたのが、お菓子のオマケや大人には一見がらくたにしか見えないものたちで一杯になった宝箱。その中で特にお気に入りだったのが、駄菓子屋の景品で当たった大小のレンズたち。それを組み合わせて覗くと、逆さまだけど遠くの景色が近くに見えたり遠くに見えたりして面白かったのだ。手の平から伝わるその冷たくて、つるつるした感触も何故か妙に心地よく感じられた。彼も本格的な望遠鏡が欲しかったのだが、当時は高価で簡単に手に入るものではなかった。学校の理科室にはニコン製の本格的な屈折望遠鏡が置いてあって、覗いてみたいと願っていたが、学校には昼間しかいられないので、その夢が叶う事は一度も無かった。その頃、世の中では宇宙史に残るイベントがTVで衛星中継され、日本全国のお茶の間でみんな初めて見るその映像に釘付けになっていた。夢中になって見ているうちに少年の心の中では宇宙への憧れが更に強くなっていった。本格的な望遠鏡で月のクレーターや土星の環や色々な星たちを見てみたい。少年は自力で本格的な望遠鏡を買うことに決めた。彼の家は決して裕福とは言えなかった。だから両親には生活の役に立つわけでもない高価なものを買ってほしいとは言えなかった。でも少年のお小遣いは一日30円。駄菓子屋のお菓子は買えるけど・・・。それに小銭で持っているとおやつの誘惑に負けてしまうかもしれない。少年は毎日貰っていた小遣いを月一回、千円札で欲しいと母親に頼みこんだ。その日から少年は望遠鏡を買う為に貯金を始めた。友達がお菓子をおいしそうに食べているのをみても我慢していた。お年玉も親戚のおじさんやおばさんに貰ったお小遣いも全部貯金に回した。そして貯金を始めてから二年近くが経っていた。お小遣いを渡しているのに、一切お金を使おうとしないそんな少年の行動の変化に両親もとっくに気付いていた。 ゛おやつ買わないの?” 母親が聞くと、少年は遂に望遠鏡買う為に貯金していることを打ち明けた。その後その事は母親を通じて父親の耳にも届くことになった。ある日の午後、父親が少年に尋ねた。たった一言。゛あといくら足りないんだ?”少年は遂にかねてから念願の望遠鏡を手に入れることができた。


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